第三位：カムイ伝

＜第三位：カムイ伝/白土三平＞

Kamui

カムイ伝（1）

昭和３０年～４０年代生まれの方なら誰しも聞いたことがあるであろう大河漫画の傑作、「カムイ伝」は雑誌「ガロ」の１９６４年１２月号から１９７１年７月号まで、およそ６年間の長きに渡って連載された。

　上記は「第一部」であり、「第二部」は第一部連載終了１７年後の１９８８年から２０００年まで「ビックコミック」にて連載されたが中断。現在「第三部」の連載開始が近いという情報が流れているが、もし実現すれば半世紀に渡って書き継がれるギネス級の一大叙事詩となるだろう。

　その他にもビッグコミックに連載され、アニメ化もされた「カムイ外伝」もあるのだが、私がベストテンの第三位に推したのはあくまでも「第一部」。

　描かれる時代は江戸時代が始まって３０年後、１６４４年（寛永末）から
１６６２年（寛文初頭）までの約２０年間。架空の藩である「日置藩」を舞台に、非情な階級制度に苦悩し、武士による圧政と搾取の打破に命をかける非人のカムイ、農民の正助、武士ながら彼らの味方となる草加竜之進らを中心に物語は展開する。

　為政者である武士階級はあらゆる手段を駆使して階級制度の維持に狂奔し、それがために幾千・幾万の尊い命が失われる。本来生産の中心である農民達は武士階級によって一方的に搾取され、その行き場のない怒りは彼らよりも低い階級である非人達に向かうようし向けられる。

　非人・農民・武士、それぞれの視点で江戸時代の階級制度とその冷酷非情さを克明に描き、その世界からの脱出（一揆＝革命）に命を賭けた人々を謳いあげたこの「カムイ伝」こそは青年漫画の金字塔というにふさわしい作品であると私は思う。

　作品は階級闘争が主題であるから決して明るいモノではなく、むしろ殺伐・暗澹たる光景が次から次へと展開されていくのだが、それ故命を賭けて自由を勝ち取ろうとする登場人物達の生き様が強烈なインパクトを持って読む者を圧倒する。

　この作品だけを読むと江戸時代というのは武士階級以外にとっては悲惨極まりない暗黒時代ということになってしまうのだが、時代の一側面を捕らえていることは認めるものの、私は必ずしもこの「白土史観」に全面賛成するものではない。

　にもかかわらずこの作品を第三位に推したのは、連載開始から約半世紀を経た今でも、この作品が放つ強烈なインパクト、逼塞感漂う現代へのメッセージ性は少しも薄まっておらず、むしろ逆に増しているのではないかと感じているからなのだ。未読の方には是非一度通巻で読んでみて欲しい。

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